拠点形成プロジェクト
キリシタン新出資料の多角的分析:
トゥールーズ断簡を中心に
プロジェクト代表者
岸本 恵実
大阪大学大学院人文学研究科・教授
2024年、トゥールーズ図書館(Bibliothèque d’Étude et du Patrimoine, Toulouse)所蔵のキリシタン版『サカラメンタ提要』(1605年長崎刊)を補強する反古紙に、日葡辞書稿本、キリシタン版国字本、欧文免償状(贖宥状)など、極めて貴重な新出資料が複数含まれることが発見されました。これらを「トゥールーズ断簡」と呼ぶことにし、本プロジェクトは、①トゥールーズ断簡をもとにキリシタン版制作のプロセスを解明すること、②トゥールーズ断簡以外の近年発見されたキリシタン文献を複数の角度から再検討すること、を目的とします。
これまで、キリシタン版辞書の稿本は全く知られていませんでした。本断簡の日葡辞書稿本は、キリシタン版『日葡辞書』本篇・補遺篇(1603・1604年長崎刊)の編集過程を如実に示す、キリシタン辞書編纂の実態に迫る初の資料です。国字本断簡は、現存わずか4件の前期国字本に新たな1件を加える最初期のキリシタン版です。アニュス・デイ(子羊の図像を持つ、円形または楕円形の蜜蝋で作られた信仰具)の功力を説く日本語文は、欧文典拠をもち、かくれキリシタンにも伝承されていたことが明らかになっています。また、スペイン語・ポルトガル語で印刷された2点の免償状は、コンフラリア(信心会、信徒組織)に対して発せられたヨーロッパの印刷物であり、当時日本においてイエズス会と托鉢系修道会とがコンフラリアや免償をめぐって対立していたこととの関連をうかがわせる史料です。
このトゥールーズ断簡以前にも、近年初めて知られたキリシタン関連文献は少なくなくありません。たとえば、キリシタン版では『ひですの経』、リオ・デ・ジャネイロ本『日葡辞書』、ユトレヒト本『さるばとるむんぢ』、写本ではイエズス会士マノエル・バレト自筆『葡羅辞書』などです。これらの紹介は一通りなされたものの、キリシタン語学・史学の資料としての活用はまだ十分でなく、新たな視点での分析が期待されています。
本プロジェクトにおいて、トゥールーズ断簡の学術的意義を明らかにし、さらに、上記のような比較的新しく発見された資料を言語史・印刷史・思想史・日欧交渉史などの面から多角的に再検討することは、国内外、複数の領域において注目を集めるキリシタン研究の再構築に貢献するものと考えています。
プロジェクト構成員 | ||
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学内 | 岡島 昭浩 | 大阪大学大学院人文学研究科・教授 |
学外 | 黒川 茉莉 | 日本学術振興会特別研究員(PD)・ 国立国語研究所外来研究員 |
中野 遙 | 上智大学基盤教育センター・特任助教 | |
Martin NOGUEIRA RAMOS | フランス国立極東学院・准教授 | |
折井 善果 | 慶應義塾大学法学部・教授 | |
下岡 絵里奈 | トゥールーズ ジャン・ジョレス大学外国語学部・ 日本語専任講師 |
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白井 純 | 広島大学大学院人間社会科学研究科・教授 | |
豊島 正之 | 上智大学・名誉教授 | |
Carla TRONU MONTANÉ | 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院・准教授 |
キーワード | キリシタン、キリシタン語学、キリスト教史、印刷史、言語史、文献学 |
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