拠点形成プロジェクト
明治期における伝統日本法紹介の試み
―日独法学者による『令義解』独訳計画―
プロジェクト代表者
小野 博司
大阪大学大学院高等司法研究科・教授
このプロジェクトでは、20世紀初頭の日本とドイツの法学者により形作られた日本法研究のネットワークを明らかにすることを目指し、養老令の官撰注釈書である『令義解』のドイツ語翻訳事業について取り上げます。
19世紀後半、とりわけ幕末の「開国」を一つのきっかけに、日本社会のさまざまな文物が西洋社会で紹介されるようになりました。最も有名なのは芸術ですが、「法」もその対象となりました。西洋法を継受する以前の法(=伝統日本法)は最初、明治政府の法律顧問を務めた外国人法律家(ジョルジュ・ブスケ)により紹介されましたが、やがて、世界的に著名な比較法学者であるベルリン大学教授のヨーゼフ・コーラーの注目するところとなりました。世界中の法を蒐集し、その比較を目指したコーラーからの慫慂を受けた東京帝国大学教授の穂積陳重(明治民法の起草者の一人)は、門人の廣池千九郎(廣池学園の創設者)と、コーラーの教え子であった津軽英麿(津軽伯爵家養嗣子)を誘い、『令義解』のドイツ語翻訳を試みました。本プロジェクトでは、これを(伝統)日本法の国際紹介の先駆的試みと位置づけて、その背景及び内容を関係者が残した資料を用いて可能な限り明らかにしていきます。
本プロジェクトを構想したのは、2017年から2019年にかけての在外研究がきっかけです。私は「日本法制史」という分野の研究・教育を行っていますが、以前は、海外の研究者の(伝統)日本法に対する評価にあまり関心を持たず、彼らとの研究交流の機会もほとんどありませんでした。しかし、在外研究を通じて、彼らの研究、またその背景に存在する問題関心を学ぶことが、これまでとは異なる視点で「日本法の歴史」を紡ぎ出す上で大きな手がかりになると考えるようになりました。本プロジェクトが取り上げる20世紀初めの『令義解』ドイツ語翻訳作業は、その最初期の試みであり、しかも、コーラー、穂積という当時の日独を代表する法学者が主導したという点でその後も例を見ない重要性を持っています。それゆえ、19世紀から21世紀にかけての西洋社会における(伝統)日本法研究の歴史を描くにあたっては、その全貌(背景・内容)解明は、欠かすことのできないものだと考えます。
プロジェクト構成員 | ||
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学内 | 的場 かおり | 大阪大学大学院法学研究科・教授 |
学外 | Urs Matthias ZACHMANN | ベルリン自由大学歴史・文化学部・教授 |
矢嶋 光 | 名城大学法学部・准教授 |
キーワード | 令義解、ヨーゼフ・コーラー、穂積陳重、廣池千九郎、津軽英麿 |
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