拠点形成プロジェクト

2022年度 研究拠点構築型

オーラルヒストリー資料の保存・公開・活用に関する
共同研究

プロジェクト代表者
安岡 健一

大阪大学大学院人文学研究科・准教授

インタビューを通じて当事者の記憶と経験を記録するオーラルヒストリーは、歴史学、社会学や人類学など多彩な分野で研究方法として広く認知されているだけでなく、「まちづくり」など人と人とを結びつける社会活動や演劇の創作など文化活動において市民によって有効な手法として活用されています。

海外では大規模図書館の部門のほか大学における専門のセンターなど拠点が数多く存在しており、そこでは幅広いテーマで実施されたオーラルヒストリーによって生まれた資料が保存され、研究・教育や利活用が推進されています。しかし、日本では拠点となる施設が乏しいだけでなく、既存の資料館や研究機関等に保存されている資料も、権利処理の難しさをはじめ様々な要因から活用に大きな制約を抱えている例が少なくないのが現状です。

本プロジェクトはこうした現状に向き合い、オーラルヒストリーにより生まれた、主として音声・動画資料の保存、そして活用に関わる課題を把握するとともに、課題の解決方法を学際的に検討し、得られた知見を発信することを目的とします。この目的のため、学内外にわたる、関連する専門分野の研究者や聞き取りを実践する市民、専門的な実務者の協働に基づくネットワークの構築を推進します。あわせて、将来的なオーラルヒストリー教育・研究の拠点を形成するための条件も検討したいと思います。

人の語りは、単に過去の事実に関わる証拠のひとつというだけでなく、記憶や主観性、情動やパフォーマンスといった多様な側面から人間理解を可能にする貴重な資料です。本プロジェクトの遂行には、これまで安定的に保存できていなかった資料を守り、活用する基盤が形成され、より豊かな学術的・文化的な創造が可能になるという意義があります。

近年、歴史研究の分野でもパブリック・ヒストリーという実践が注目され、歴史研究が果たす公共的役割が検討されています。オーラルヒストリーはデジタル化の潮流を受け、これまで以上に公的な領域との関与を強める可能性を期待されている分野であり、現代における人文学の変化を牽引する可能性を持ちます。

次のような事項に関心がある方のほか、問題意識を共にする、幅広い研究者、専門職、市民の方と情報交換をしたり、支援をいただけたりできましたら幸いです。

  1. オーラルヒストリー・アーカイブ・プロジェクト研究会の継続的実施
  2. インターネットを含むオーラルヒストリーの公開方法の検討
  3. オーラルヒストリーに関する法律問題(特に著作権、名誉棄損、個人情報保護)の学習
  4. 資料館(アーカイブ)や図書館における資料管理方法の提案
  5. 聞き取りに取り組む市民グループとの連携
  6. オーラルヒストリー実践に関する海外のマニュアルの検討
  7. 日本国内の制度に即したマニュアルの検討
  8. オーラルヒストリーの録音・録画に関する技術的な検討
  9. 海外のオーラルヒストリー実践についての紹介
  10. オーラルヒストリーを行う/オーラルヒストリー資料を用いた教育実践

連絡先:
安岡健一(大阪大学大学院人文学研究科・准教授)
yasuoka.kenichi.hmt(at)osaka-u.ac.jp ※ (at) は @ に置き換えて下さい。

「1970年・大阪万博の時代ー地域住民の記憶と経験を聞き取るー」の成果発表会の様子
(2022年9月9日、「吹田歴史文化まちづくりセンター」(浜屋敷)にて)
第一部では阪大生が聞き取りの成果を発表し、第二部では語り手や地域の住民と語りあった。写真は第二部の様子
(2022年9月9日、「吹田歴史文化まちづくりセンター」(浜屋敷)にて)
プロジェクト構成員
学内 菅 真城 大阪大学アーカイブズ・教授
学外 五月女 賢司 大阪国際大学国際教養学部・准教授
福島 幸宏 慶應義塾大学文学部・准教授
菊池 信彦 国文学研究資料館・准教授
松本 章伸 早稲田大学教育・総合科学学術院(学振PD:2022年10月より学振CPD)
山田 菊子 ソーシャル・デザイナーズ・ベース
大野 光明 滋賀県立大学人間文化学部・准教授
小黒 純 同志社大学社会学部・教授
中村 春菜 琉球大学人文社会学部・准教授
福山 樹里 国立国会図書館
キーワード オーラルヒストリー、資料保存、パブリック・ヒストリー、人文学のデジタル化、研究倫理