拠点形成プロジェクト
京都学派およびポスト京都学派における
科学哲学および技術哲学研究
プロジェクト代表者
山崎 吾郎
COデザインセンター・教授
最終年度 実施・研究成果報告書
最終年度の実績
2023年度は国際会議でのセッションを1つ、オンラインの研究会を1つ、オンライン・対面のハイブリッドで総括シンポジウムを1つ開催しました。
- 国際会議パネルセッション:Reevaluating the Theory of Technology in the Kyoto School
日時:2023年9月7日(木)(16:15-18:00)
会場:University College Cork(UCC)West Wing 6 - 研究会:岩田慶治:「京都学派およびポスト京都学派」という文脈において
日時:2023年12月9日土曜日15:00-17:00
会場:オンライン(一部対面) - シンポジウム「京都学派およびポスト京都学派と科学哲学・技術哲学の現在」
日時:2024年1月28日[日]13:00 ‒ 17:00
会場:大阪大学豊中キャンパス 基礎工学国際棟1階 セミナー室(ハイブリッド開催)
研究期間全体における研究成果の概要
2021年の採択当時はコロナ禍の影響がいまだ強かったこともあり、本研究プロジェクトは主としてZOOMを活用したオンラインないしはハイブリッド形式での実施となりました。研究期間中、オンラインでの研究会は計6回開催され、いずれも京都学派およびポスト京都学派に関わる哲学および関連分野のテーマをとりあげました。哲学思想分野では西田幾多郎、三木清、下村寅太郎、中井正一といった京都学派を代表する哲学者の業績の詳細な検討をしたほか、関連領域では今西錦司(生態学)や岩田慶治(文化人類学)をとりあげ、京都学派の多様な展開と幅広い影響関係、そしてそれらの今日的な意義について検討しました。研究会には、プロジェクトメンバーに加えて、ゲストとして中堅若手を中心とする学外の研究者が数多く参加し、毎回20名以上の参加者がありました。オンラインを活用したハイブリッド形式の研究会の効果であり、研究活動の学外への発信という点でも、拠点形成事業という点でも、一定の成果があったと考えています。2022年度、2023年度には、研究プロジェクトの活動を総括するシンポジウムを対面・オンラインのハイブリッド形式で開催しました。特に最終年度の総括シンポジウムには70名を超える参加があり、本研究プロジェクトへの関心の高さをうかがうことができました。
海外での研究活動の成果として、2021年度、2023年度の2回、日本哲学ヨーロッパ・ネットワーク(ENOJP)が主催する国際会議に参加して研究成果の発表をしたほか、海外研究者との交流を深めることができました。
活動期間中、メンバー構成に大きな変更は生じていません。他方で、活動を通じて着実に研究者ネットワークを広げることができ、2022年度と2023年度に実施したシンポジウムでは、そうしたネットワークを活かして学外からゲストをお呼びし議論を深めることで、拠点形成事業としての役割を果たすことができました。また、幅広く関係する研究者に関与いただいたことで、京都学派の学術的成果がもつ影響範囲について、当初の想定を超えて広がりをもった検討をすることができました。一例をあげれば、日本哲学と文化人類学の関わり、フランス・エピステモロジーとの関わり、日本思想の生活思想への展開といった主題が、あらたに京都学派の科学哲学・技術哲学の歴史的意義を検討するうえで重要な主題となることが明らかとなってきました。
プロジェクトは2023年度をもって終了となりますが、本プロジェクトを通じて醸成された以上の学術的関心については、引き続き取り組む意義があると考えています。そのため、本プロジェクトのコアメンバーを中心としながら学外のメンバーに加わっていただくかたちで、2024年度以降新たに研究会を立ち上げる準備を進めています。そこでは、京都学派およびポスト京都学派の科学哲学や技術哲学にかかわるこれまでの研究成果に立脚し、その哲学的実践が戦前から戦中、戦後にかけて「市民」の「生活」の思想へと展開していく系譜や、個々の思想的変遷をたどることを研究テーマとして検討しています。
近年、「共生」や「共創」を旗印に社会の幅広いアクターが連携しながらオープンに研究や実践を進める動きが広がっていますが、こうした研究動向は多くの場合、欧米のオープンイノベーション等の政策的議論に理論的な支柱を持ち、その背景には欧米における科学哲学・技術哲学の現代的な展開があります。そのためこうした議論には、日本社会における過去の歴史的実践との認識論的な断絶がみられたり、過去の取り組みや歴史的経緯が軽視されていたり、さらには実情に必ずしも適合しない目新しい理論や概念が横行するといった特徴がみられます。しかしながら、20 世紀の日本においても、市民社会論、市民運動論、フィールドワーク論、生活文化論などの市民参加型の「生活」を重視する思想が広く展開していたことが知られており、そこには戦前にアカデミズムとジャーナリズムの間で活動した思想家である三木清や中井正一からの知的な影響関係をみてとることができます。この意味で、京都学派の科学哲学・技術哲学の研究成果は、今日の共生や共創のテーマに対して、日本社会に固有の歴史的コンテクストを導入する契機となりうるでしょう。
本プロジェクトは、とりわけ最終年度後半の活動を通じて今日のアクチュアルな研究・実践上の課題へと展開する可能性が見いだされ、新たな研究プロジェクトを立ち上げるきっかけとなりました。こうした研究の展開も、本プロジェクトの重要な成果であったと考えています。次なる共同研究では、京都学派にとどまらず、戦後の「思想の科学」グループや吉本隆明の思想、水俣における市民運動、歴史学における安丸良夫の民衆思想史などからの影響にも幅広く目を向けていくことになります。
主な発表論文
論文
- Higaki, Tatsuya
2023 The Davos Dabate and Japanese Philosophy, Welt-Schema and Einbildungskraft in Tanabe and Miki, pp.345-362. - 檜垣立哉
2021「大森荘蔵と西田幾多郎 現在と身体をめぐって」『現代思想』49(15): 115-126. - 犬塚 悠
2022「ジョン・C・マラルド氏の和辻解釈をめぐって」European Journal of Japanese Philosophy (7) 97-104. - 森野雄介
2022「猫と歴史的世界 あるいはストレンジャーのポイエシス : アンリ・マルディネから西田幾多郎を読み直す」『金沢学院大学紀要』20: 238-257. - 織田和明
2023「平⾏線と脱⾛:九鬼周造と中井正一の隔たりについての思想」『社藝堂』10: 183-199. - 山崎吾郎
2022「自分自身の哲学者になること:文化人類学と哲学が交錯する場所で」、檜垣立哉・山崎吾郎編『構造と自然: 哲学と人類学の交錯』勁草書房、pp. 1-21.
学会発表
- Higaki, Tatsuya
2023 Shimomura Toratarō’s Philosophy of Science, European Network of Japanese Philosophy 7th Annual Conference, 2023.9.7. - Inutsuka, Yū
2023 Creation and Responsibility in Miki Kiyoshi’s Philosophy, European Network of Japanese Philosophy 7th Annual Conference, 2023.9.8. - Oda, Kazuaki
2023 Nakai Masakazu's Philosophy of Technique: Beyond Nakai Masakazu as A Secret Committee, European Network of Japanese Philosophy 7th Annual Conference, 2023.9.7.
2022 “Iki” of Two – Kuki Shūzō and Nakai Masakazu, European Network of Japanese Philosophy 6th Annual Conference, 2022.2.4. - Yamazaki, Goro
2023 The Influence of Cultural Anthropology on Miki Kiyoshi's Philosophy of Technology, European Network of Japanese Philosophy 7th Annual Conference, 2023.9.7.
プロジェクト構成員(最終年度時点) | ||
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学内 | 森田 邦久 | 大阪大学大学院人間科学研究科・教授 |
織田 和明 | 大阪大学情報科学研究科・特任助教 | |
学外 | 檜垣 立哉 | 専修大学文学部・教授 |
DALISSIER Michel | 金沢大学国際基幹教育院任期付准教授 | |
犬塚 悠 | 名古屋工業大学大学院工学研究科・准教授 | |
FERRARI Felipe | 四日市大学総合政策学部・准教授 | |
森野 雄介 | 金沢学院大学基礎教育機構・講師 |
キーワード | 京都学派、ポスト京都学派、科学哲学、技術哲学、日本哲学 |
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