イベント
大阪大学グローバル日本学教育研究拠点・
東国大学校日本学研究所・ソウル大学校日本研究所共催
国際シンポジウム
インターセクショナリティと在日性
Intersectionality and Being Zainichi
開催報告
宇野田尚哉(大阪大学大学院人文学研究科教授)
今年度の国際シンポジウムは、本拠点が採択・支援する「拠点形成プロジェクト」の一つ「在日コリアン文学の国際研究ネットワーク構築(An International Collaborative Network for Research on Zainichi Korean Literature)」を基盤として開催しました。本学のニコラス・ランブレクト助教とユタ大学のシンディ・テキスター助教授を代表とするこのプロジェクトは、日本と北米の間で研究者・実作者のネットワーキングに取り組んできましたが、テーマの性格上、韓国の研究者とのネットワーキングも重要な課題であり、今回は、韓国の東国大学校日本学研究所の金煥基所長、ソウル大学校日本研究所の趙寛子副教授の協力のもと、本拠点を含む3機関の共同主催というかたちで、ソウルの東国大学校において開催しました。
テーマは、「インターセクショナリティと在日性(상호교차성과 재일성)」と設定しました。「在日」「文学」を出発点とする研究プロジェクトを、人的ネットワークの面だけでなく、研究対象や研究課題の面でも拡張することを意図してのことです。チョ・スイル報告、シン・ジェミン報告は、在日文学を代表する作家である金石範、李恢成の営みを、文学研究の枠内に限定されないより広い文脈にそれぞれ位置づけなおそうとする試みであったいえるでしょう。シンディ・テキスター報告は、北米で評価の高いミンジン・リー『パチンコ』、柳美里『JR上野駅公園口』をめぐる報告でした。とりわけ、在日コリアンではない書き手によって英語で書かれてベストセラーになりドラマ化もされた『パチンコ』は、日本においてはそれほど話題にならなかったという状況も含め、国際的対話を深める重要な手がかりであることが確認されました。宇野田尚哉報告・趙寛子報告は、在日コリアンの経験を手がかりとしながら、現代日本社会の抱える輻輳的な差別や抑圧の構造に光を当てようとする試みであったと位置づけることができます。全体として、「在日」「文学」を出発点としつつ、人的ネットワークの面でも対象や課題の面でも研究プロジェクトを拡張するという当初の目的は、十分に達成できたと思います。
コロナ禍真最中の2020年12月に設置された本拠点は、海外での活動ができない状況に置かれてきました。初めて海外で開催する学術イベントとなった今回の国際シンポジウムは、その意味でも本拠点にとってとても大きな意義を持つものとなりました。共同主催してくださった東国大学校日本学研究所、ソウル大学校日本研究所に、この場を借りてあらためてお礼を申し上げます。
プログラム・タイムスケジュール | |
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13:00~13:10 | 開会の挨拶(金煥基/東国大学校日本学研究所所長) 歓迎の挨拶(ナム・キジョン/ソウル大学校日本研究所所長) |
13:10~13:45 | 金石範文学の交差性と在日性登壇者 チョ・スイル(翰林大学校) |
13:45~14:20 | 李恢成と1980年代:志向としての第3世界文学と民族の再発見登壇者 シン・ジェミン(東国大学校) |
14:20~14:55 | “英語圏”から見た「在日」ーミンジン・リー『パチンコ』、柳美里『JR上野駅公園口』をめぐってー登壇者 シンディ・テキスター(ユタ大学) |
14:55~15:10 | 〈休憩〉 |
15:10~15:45 | 「一斉糾弾闘争」のアイデンティティ・ポリティクスとインターセクショナリティ登壇者 宇野田尚哉(大阪大学) |
15:45~16:20 | 玄秀盛に聴く、ネグレクト·ヘイト・復讐心を「人助けの力」に変えるには?登壇者 趙寛子(ソウル大学校) |
16:20~16:50 | 総合討論 |
16:50~17:00 | 閉会の挨拶(宇野田尚哉/大阪大学) |